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東西南北!とくすつば!の企画用ブログ兼個人的な創作置き場。
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    アゲハチョウ

    アゲハチョウは

    ひらりひらりと

    僕の手を掠ることすらなく

    舞っていった






    「へえ・・・早百合には弟がいたのかい」

    中三の春頃。
    姉さんに連れられ、その人は家にやってきた。

    彼女の名前は・・・

    「あたしは森英 恭仁。早百合のクラスメイトだよ。よろしく」



    雪のような白い肌。すらりとした長身。透き通るような瞳。
    逆十字のペンダントを首にかけ、編んだ黒髪には蝶の飾り。
    同年代の女の子にはない、不思議な空気を纏っていた。

    綺麗な人だと思った。



    話してみると、思いのほか気さくな人だった。
    姉御肌、とでも言うのだろうか。
    サバサバとした飾り気のない口調。

    どうやら柔道の腕を見込まれて、スポーツ特待で北斗に入学したらしい。
    黒帯だと言うのだから、相当なものだろう。

    「びっくりしましたわよ。お姉さまったらこの前廊下でいたずらしようとした先輩を投げていたんですもの」
    「あれは正当防衛だよ」
    「そうでしょうけど、白南風だったら停学ものですわよね・・・」

    姉さんは彼女のことを、「お姉さま」と呼んでいた。
    どうやら、学校での彼女は先輩同輩問わず「姉御」と呼ばれているらしい。

    「確かに森英さんって姉御って感じがします」
    「そうかい?」
    「でも勿体無いかも。苗字も名前も綺麗なのに」
    「嬉しいこと言ってくれるね。でもたまに「お恭仁」って呼ばれることもあるよ」
    「お恭仁・・・」

    その古風な呼ばれ方が、なんとも彼女に合っていると思った。

    「じゃあ僕も、お恭仁さんって呼んでいいですか?」
    「ああ、いいよ・・・坊やの名前は何て言ったっけ」
    「平八郎です。みんな平八って呼びます」
    「へえ、古風な名前だね。じゃあ、あたしも平八って呼ぶかな」
    「・・・初対面ですのに、ずいぶんと親しげですわねえ・・・」

    僕がお恭仁さんと仲良さげに話しているのが気に入らないのか、姉さんは唇を尖らせていた。

    「いくらお姉さまが綺麗だからって、手出したら許しませんわよ」
    「出しませんって!何言ってるんですか!」
    「はは、あんたたち仲いいねえ」

    それから。
    お恭仁さんは何度も家に遊びに来た。

    彼女は何度見ても不思議な雰囲気を醸し出していて。
    それなのに内面はさっぱりとして明るくて。

    会うたびに、彼女に惹かれていく自分に気がついた。






    そういえば、女の子と付き合ったことは何回かあるけれど。
    自分から恋をしたことなんてなかった、かもしれない。

    もしかしたら、これが初恋ということになるのだろうか。
    女性経験があるのに初恋というのも、なんだか変な感じがするけれど。






    そんな想いを抱えたまま、夏がやってきた。





    太陽がじりじりと照りつけるその日も、お恭仁さんは家に来た。
    暑さに耐えかねた姉さんが、席を立つ。

    「アイスを買ってきますわね、すぐ戻りますので二人はそこで待っていてくださいまし」

    そう言って、部屋を出て行った。

    「・・・・・・」
    「・・・・・・」

    思いがけず、二人きりになってしまった。
    いつも姉さんがいるから円滑に話が進むけど、いざ二人だけになると言葉に詰まるもので。

    「・・・あ、暑いですね」
    「そうだねえ」

    ああ。
    気の利いた台詞が思いつかない。
    なんて情けないんだろう。

    「平八は、中学生のわりに背が高いよね」
    「・・・はい?」

    唐突に、身長の話題になった。

    「知ってるかい、恋人同士の身長差って15cmくらいが理想らしいよ」
    「そうなんですか?」
    「平八は何センチだい?」
    「んー・・・この前測ったら、174cmくらいだったかなあ」
    「じゃあ9cmか」
    「はい?」
    「あたしと平八の身長差だよ」

    ・・・ちょっと待って。
    何でそんな話になってるの。

    今、恋人同士の身長差、って、言ってたよね?

    彼女にとっては冗談半分なんだろうけど。
    そんなこと言われたら。


    意識してしまう。


    「平八があと6cm伸びれば理想の身長差になるわけだ」
    「それは恋人同士だったらの話でしょ?僕らは違うじゃないですか」
    「・・・あはは!全くだ!」

    ああ。
    どうして。
    僕の気も知らないで、そんなこと軽く言って。

    このままいると、想いを打ち明けてしまいそうで。

    言ったらどうなるだろうか?
    また冗談で流されてしまうんだろうか?
    それとも・・・

    ここに今、姉さんはいない。
    だったら言ってしまおうか。
    たとえ振られたとしても、口止めしておけば姉さんに知られることはないだろうし。
    今後、会えなくなるわけじゃない。

    「あの、お恭仁さん」
    「なんだい?」



    「・・・あなたは、どんな人が恋人だったらいいと思いますか」




    ・・・結局、言えなかった。
    それはそうだ。
    思いの丈を打ち明けてしまったら、今までの関係じゃいられなくなる。
    無条件に笑いかけてもらえることも、なくなるかもしれないんだ。

    何より、嫌われるのが、怖かった。




    「そうだねえ・・・やっぱりあたしも女だからね」
    「?」
    「自分より強い人・・・が、いいかな」





    ・・・あーあ。
    告白する前に、玉砕しちゃったよ。

    「ずいぶん、理想が高いですね・・・」
    「そうかねえ?周りにも結構いると思うんだけど」

    柔道黒帯のお恭仁さんより強い人なんてそんなにいるわけないでしょう。
    何より、普通の男より弱い僕が敵うわけがなくて。

    告白しなくてよかった、とか。
    むしろ勢いで告白したほうがよかった、とか。
    さまざまな思いが、頭を駆け巡った。



    姉さんが買ってきたアイスは、味がしなかった。
    いや、味は付いているはずなのだが、脳が味を認識しようとしてくれなかった。
    後悔ばかりが、ぐるぐると湧き上がる。

    なんで、あんなこと聞いたんだろう。
    結局、相手にされないことが目に見えただけじゃないか。
    現実が見えないままだったら、どれだけよかっただろうか。






    そして月日が経ち。
    僕は高校生になって、新しい恋をした。

    今度こそ後悔しないように、想いを打ち明けよう。
    お恭仁さんの時みたいにウジウジしてたら、手に入るものも手に入らないんだ。

    そう思って素直にぶつかったところで、最初は相手にされなくて。
    それでも諦めずに何度も好きだと言って。

    怒らせたりすることも度々あったけど。
    まだ完全に好きだとは言われていないけど。

    その人は、今では僕の恋人になっている。








    今日は、お恭仁さんが家に泊まりに来ていた。
    泊まるのは、無論、姉さんの部屋だけど。

    今宵は満月。
    街灯の少ないこの町も、こころなしか明るく感じた。

    姉さんは今、お恭仁さんの分の布団を用意している。
    それが終わるまで、彼女は縁側で待っているようだ。
    僕はそんな彼女の横に座っていた。
    たぶん、二人きりで話すのは、1年前の夏以来。

    「・・・身長差の話、覚えてます?」

    素の口調で話すのも、その時以来だった。

    「ああ、恋人同士の理想の身長差の話だよね」
    「僕、今180cmあるんですよ」
    「・・・へえ。それじゃあ、あたしとはぴったり理想の身長差じゃないか」

    うん。
    今更そうなったところで、意味はないけどね。

    「出雲は何cmだっけ?」
    「うーん・・・詳しくは知らないけど、170前半だって聞いたかなあ・・・」
    「あはは、全然足りてないじゃないか。がんばれ」
    「あの人とは15cm差つけられる気しませんって・・・」

    姉さんの部屋から、お恭仁さんを呼ぶ声が聞こえた。

    「それじゃ、あたしは行くよ。おやすみ」
    「・・・ちょっと待って」
    「何だい?」



    「僕・・・中学の頃、あなたのこと好きだったんですよ」



    それは、遅すぎた告白。
    そして。

    「あはは、いきなりどうしたんだい」

    明らかに本気にしてないような返事。
    予想はしていたけど。
    でも、今だったら傷つかない。

    「まさか過去形で告白されるとはね」
    「あの時、お恭仁さんの好みが強い男だと聞いてすぐ諦めましたからね」
    「・・・そうかい」

    お恭仁さんは声のトーンを落として、僕に背を向けた。

    「・・・強い男ってのは、身体的じゃなくて精神的な意味だったんだけどね」

    そう言い残して、去っていった。





    「・・・どういう意味だ?」

    彼女のその言葉の真意は分からないけど。
    でも、まあいいや。

    なんだか、ずっと言えなくて後悔していたことが言えてすっきりした。
    今言ったところで何にもならないんだけど。



    とにかく、お恭仁さんには感謝しないと。

    あの人のおかげで、今の僕があるんだから。






    -----------------------------------------
    そんな平八の初恋話でした。
    中二で童貞喪失した奴が中三で初恋ってすごくアレだけどな!
    いざたんに何の許可も得てないぜおい!
    あとお恭仁さんの口調捏造だぜ!まあいいや!←

    平八の好みのタイプってお恭仁さんも当てはまるよなあ。
    早百合の友達だから家に来ても不思議じゃないし。
    ということに気づいて。
    中学時代の平八はお恭仁さんに惚れていたという設定を
    ひっそり(勝手に)考えつつやっと形にしたのである((


    高校入学して初めて出雲さんを見たとき、
    第一印象は「どことなくお恭仁さんに似てる」だったかもしれないな。
    まあ初対面でガンつけられてすぐ「全然違う・・・!」って
    気付いただろうからその後面影を重ねるなんてことしてないだろうけど。

    お恭仁さんが出雲さんのこと知ってるのは
    前描いた漫画で姫宮家に二年女子が勢ぞろいしたからなんです((
    勢ぞろいと言っても、その時はまだふくちゃんいなかったけど。
    うん個人的設定個人的設定!よそさまのキャラだけどな!(×
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