最近、校舎裏に黒猫が住み着いている。
僕は昼休み、その猫に定期的に餌を与えていた。
艶のある黒い毛だから、名前は「水ようかん」。
まあ勝手に僕が付けただけだけど。
この日、いつものように校舎裏に餌やりに来たら、既に先客がいた。
先輩だろうか。
顔に大きな傷がある、独特な雰囲気の男性だった。
「お前、水ようかんっていうのか」
彼は、水ようかんに向かってそう言っていた。
・・・・・・?
あれ、何でその名前を知っているんだ?
水ようかんって呼んでるの、僕しかいないはずなのに。
まるで、その人が水ようかんと対話しているかのような。
そんな感じがした。
「・・・そうか、へいはちろう、か」
「はい!?」
いきなり、その人に名前を呼ばれた。
思わず間抜けな声が出てしまう。
「・・・ああ、お前が平八郎なのか」
「あの、何で僕の名前を?」
「いや・・・水ようかんが言ってたから」
不可解なことのはずなのに、妙に納得してしまった。
この人は、本当に水ようかんと会話していたんだ。
水ようかんの名前も、僕の名前も分かっていたのは水ようかんに聞いたからだとするなら理解できる。
そんな不思議な力はまるでファンタジーのようだけど。
「動物と会話できるんですか?」
「ああ・・・信じてもらえないだろうけど」
「いや、信じるしかないような状況だと思うんですが今」
「植物の声も聞こえるし、霊とかそういうのとかも見える」
「・・・へえ」
「さすがにそこまでは信じてもらえないだろうけど」
「いえ、霊感ある人だったら身近にいるので」
詳しくは知らないけど、姫宮家はそういった家系らしい。
歴史の表舞台には出てこない家。
霊的な力を持つ当主が、何かしらを代々守り継いできたと聞いたが、今となってはそれが本当か嘘かもわからない。
僕や禰々には霊的な力なんてないけど、父さんと姉さんは時々そういったものが見えることがあるらしい。
「・・・お前も、動物と会話できるの?」
「いえ、僕は無理ですけど」
「こいつが、『平八郎は自分の考えていることを分かってくれる』って」
「なんとなくだったら分かりますけど・・・それって行動とか見てれば普通じゃありません?」
そうだ。
ある程度動物と付き合っていれば、そういったことは自ずと分かってくるもので。
それは人間の赤子に対することと同じだろう。
「ん・・・なんかそれとは違う気がする。オーラが、ちょっと普通の人にはない感じだから」
「オーラ?」
なんだ。
この人は本当に何でも見えるのか。
「うーん・・・家系がちょっと普通じゃないから、それでかなあ・・・」
「かもしれない」
「でも、僕はそんな力全然ないんですよ」
そんな。
動物と対話できる力があったなら。
桜もちは、今だって元気だったはずなんだ・・・
あの時、桜もちの気持ちが分かったなら。
すぐに病気に気付いてあげられたのに。
「・・・僕も、あなたのような力が欲しかったな」
「何か、後悔があるみたいだね」
「ええ。昔・・・飼っていた犬を病気で亡くしてしまいまして。気付いたときには末期で。何でもっと早く気付いてあげられなかったんだろうって・・・」
「・・・・・・」
「辛かっただろうに・・・!それなのに、僕は・・・!」
「だからお前は獣医を目指してるのか」
「・・・え!?」
何でそんなことが分かるんだ。
それはもはや霊感云々の問題じゃなくないか?
「水ようかんにそんな話したかなあ・・・?」
「いや、桜もちが言ってた」
「!?」
今。
彼が知ってるはずのない名前が。
どうして。
まさか。
「桜もちの・・・霊が、いるんですか?」
「いる」
桜もちが、現世に留まっている?
それはつまり、この世に未練があるからだろうが、何故・・・?
「やっぱり、桜もちは・・・僕を怨んでいるのかな」
「違う」
「じゃあどうして」
「桜もちは・・・『平八が好きだからずっと一緒にいたい』って言ってる」
・・・ああ。
桜もち、僕は君が辛いときに気付いてあげられなかったのに。
必ず治すと誓って、結局だめだったのに。
それでも、どうして僕なんかを・・・?
「『平八は、桜もちが辛いとき、ずっとそばにいてくれた。桜もちの病気を治そうと、必死で頑張ってくれた』」
「・・・・・・!」
「『でも、平八は頑張りすぎるから心配。だから無理しないように桜もちがずっと見守ってるよ』」
「・・・それ、桜もちが?」
「うん、平八に伝えてって」
「・・・・・・ぅ」
情けないことに。
初対面の人が目の前にいるのに。
涙が止まらなかった。
心の重りが、下りたような気がした。
「・・・お前は、きっといい獣医になれる」
「そう、でしょうか・・・?」
「本当に動物を大切に思っているから。俺にはそれが分かる」
「だと、いいなあ・・・」
「それじゃ、俺は帰る」
「あ・・・待ってください!」
「・・・・・・?」
「お名前、教えてくれませんか」
「・・・銀ノ時 馨。3年」
「僕は1年の姫宮 平八郎です。また会いましょう」
「・・・ああ。また来る。桜もちともゆっくり話したいから」
彼の姿が見えなくなった直後、予鈴が鳴り響いた。
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うしくんのところの対談で、馨は動物と会話できるという設定を見てすぐさま思い付いたネタ。
この子は・・・平八と仲良くなれる気がすっぞ・・・!
いや、もし誰にも心を開かない系のキャラだったら捏造にもほどがあるんだが、その時は二次創作という魔法の言葉で切り抜けます((
うん、対談と同じノリの子だったらきっと大丈夫←
余談ですが桜もちは女の子です。
平八のネーミングセンスのアレさはもう分かりきっていることで。
女の子だし可愛らしくお菓子の名前にしようと意気込んだ結果。
きっと水ようかんも女の子。
真面目な話なのに桜もちとか水ようかんとか言われるたびに
自分で読み返してふいたんだがどうしてくれよう((
おまけ
動物には霊感があるとかよく聞くので。
いやまあ、うさぎに霊感あるかどうかは知らないけど←
桜もち(霊)とにくは顔見知りである
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こーゆう話に弱すぎる…ぶわわっ
そしてまさかの馨でどきどきがとまらないのですが…!サプライズ!
馨は良い人に対しては普通に接するよ!だから大体あってる!((
いじめっこは嫌いなので一年こたは嫌いだと思います(((