救えなかった弟
すまない、十兵衛。
私は、結局お前の力になってやれなかった。
十兵衛は、父や親族に異端と評され、死を惜しまれる事すらなかった。
だが・・・私は、彼の死が何より悲しかった。
何故だ。何故男を愛したというだけであのような扱いを受けねばならぬ。
十兵衛の知り合いには死を知らされず、親族のみでの形ばかりの葬式・・・
代々続く姫宮の墓には入れられず、簡素な墓に独り、あいつは埋葬された。
私にそれを止めることは出来なかった・・・
「何故です!何故十兵衛を姫宮の墓に入れぬのですか!」
「これは姫宮の面汚し、尊い御先祖の墓に入れるなど言語道断」
・・・ああ。十兵衛。
お前を救えなかったばかりか、独りにさせてしまった・・・
ならば、せめて。
「寿桂よ・・・私が死んだら、姫宮の墓ではなく十兵衛の墓に入れてはくれぬか」
「そうですわね・・・十兵衛様は、お独りでは寂しいでしょう。では私が死ぬ時も、十兵衛様の墓に入りましょう。そうすれば、皆寂しくないでしょう」
「・・・賑やかになるな」
「ええ」
---
輝「十兵衛・・・十兵衛・・・!」
九「何じゃ、俺は九兵衛じゃ」
輝「・・・?おぬしは・・・けったいな恰好をしているな」
九「まあ時代が違うからのう。ところでお前、見かけん顔じゃな。新入りか?」
輝「ここは・・・極楽か?」
九「死後の世界じゃ。今の人間は『天国』と呼んでおる」
輝「死後・・・では十兵衛もおるのか・・・?」
九「十兵衛?どうかのう・・・聞かない名前だが、じっちゃんに聞いてみるか」
---
藤「・・・姫宮十兵衛は、ここには来ていません」
輝「・・・そう、か・・・」
神「その十兵衛という男は・・・現世に縛られているのかもしれないのう」
輝「と、言うと?」
神「死に様からして・・・まず成仏はしておらぬだろうと感じてのう」
輝「どちらにしろ・・・十兵衛には会えませぬか」
神「すまないのう・・・」
九「・・・輝虎よう」
輝「何だ、九兵衛殿」
九「俺と同じじゃのう。俺も相棒が未だ見つからんでな」
輝「・・・そうか」
---
霊が見えるとはいえ、生前、私は十兵衛に会うことすらかなわなかった。
既に成仏しているものと思っていたが・・・
「・・・別の天国にいる可能性はありますが」
「その別の天国とやらには行けるのでしょうか?」
「不可能とは言い切れませんが・・・難しいでしょう」
「・・・そう、ですか」
・・・結局、十兵衛を独りにさせてしまったのか、私は。
せめて・・・せめて、あやつが愛した男と共に居れば、よいのだが・・・
---
輝虎さんと同性愛者の弟、十兵衛の話。
十兵衛と天国に加入させる気はありません。九兵衛と名前被るしね!←
美沙華
わたしの両親は、孝造さんと千沙華を「人殺し」と呼ぶ。
孝造さんと結婚したから。
千沙華を産んだから。
そのせいでわたしが死んだからと、一方的に怨みをぶつける。
・・・今更よ。
いい気なものだわ・・・
わたしのこと、家の繁栄のための道具としか見てなかったくせに。
あなたたちがわたしを、心から愛してくれたことなんて、なかったくせに・・・
孝造さんと千沙華は何も悪くないのに。
的外れな怨みを持つのはやめて・・・
お願いよ。
これ以上、孝造さんと千沙華を苦しめないで・・・!
---
みさかさんの一人称「わたし」だった((
ひらがなだったよばかん。まあいいや。
美沙華さんの実家は鏡内家という、歴史も古く、大企業も持っているようなそれはものすごい家でした。
鏡内に生まれた娘は当然のように政略結婚させられます。
美沙華さんも表向きには愛情を注がれてきたけれど、所詮は政略のための道具としか扱われませんでした。
恋愛は禁止。男性と必要以上に喋ることも禁止でした。
結局色々あって孝造さんと恋愛して、両親の反対を押し切って結婚するわけですけども。
もし産後に美沙華さんが死ななければ、ここまで尾を引くことはなかったのだろうな。
ただ美沙華さんが存命なら清七は生まれていなかったわけで、うん、なんか複雑だ←
PR