お前、あの現場見てたんだな
「・・・うん」
「てっきりずっと不登校なもんだと思ってたけど」
「萌に引きずられてね。一度だけ学校に行ったことがあったのよ」
「その日に偶然オレがロッカー荒らしてるのを目撃したと?」
「・・・うん。涼太、あんなことするような子じゃなかったからショックで」
「またしばらく学校へ行けなかったと?」
「・・・あまり関係ないかな。あのときはただ、みんなが過剰に心配するから対応に疲れちゃって」
「オレがロッカーの持ち主に因縁つけて不登校に追いやったって話も聞いてんのか」
「それは今日知った・・・」
「ナツ姉の妹を体育倉庫に呼び出したのも目撃したのか?鍵はどうやって手に入れたんだ」
「あれは涼太の叫び声が体育倉庫から聞こえてきたから気付いただけ。鍵は・・・マスターキーがあったし」
「やっぺ・・・そこまで頭が回らなかった」
「涼太って頭はいいのに肝心なとこ抜けてるよね。悪役には向いてないわ」
「・・・一番のダチも裏切って、何度もカツアゲして、女だろうが構わず殴って・・・悪役に向いていなかろうが、もうオレはまっとうな道には戻れない気がするな」
「間に合うよ。悪い事をした分、いいことをすればいいのよ」
「・・・なんか、そこまでするほど生きてることに価値を見いだせないんだよな。今」
「そんな事言わないで・・・って言いたいところだけど、叶が死んでからのわたしも同じこと思ってたから人の事言えないな・・・」
「いっそ死ぬかな。死んで叶兄ちゃんと下らないだべりでもしてたほうが楽しそうだ」
「自殺は大罪らしいから、そしたら多分叶のところにはいけないよ?」
「誰の受け売りだ、それ」
「萌。なんだかんだであの子もわたしのこと心配してくれてたみたい。おかげでわたしもさすがに自殺は思いとどまったわ」
「・・・あいつも辛いはずなのにな。オレでさえ堪えたのに」
「・・・せめてわたしたちは生きよう?何をしててもわたしは涼太を見捨てないよ」
「何でだよ。オレがどうしようもない最低野郎だってことは知ってるだろ?」
「うん、最低だね」
「おま・・・」
「確かに今の涼太は最低だけど、根はいい子だって知ってるから」
「今の俺がいい子なわけない」
「涼太は寂しがり屋だから。最後の一人になってもわたしは涼太の友達でいるよ」
「・・・あ、そ」
「涼太引っ越しちゃったし、転校しちゃったら会う事も少なくなると思うけど・・・ずっと、友達でいようね」
「・・・ああ」
・・・結局、オレは転校先でもカツアゲを繰り返したし、深夜徘徊、飲酒喫煙もした。
あいつは携帯を持っていたけど、連絡はしなかった。
自宅の新しい電話番号もあいつに教えてないから結局のところ音信不通になった。
あの時偶然再会しなければ、そのまま記憶の中だけの存在になってただろうと思う。
「久しぶり。しばらく見ないうちにおおきくなったね」
「別にでかくねーよ。さなが小せえだけだろ」
「でも、昔はわたしより小さかったじゃない」
「あんたより小さかったら男として情けなさすぎだろ」
「え、でも高校の先輩でわたしより小さい男の人いるよ?」
「まじかよ・・・」
「転校してからずっと会ってなかったよね」
「・・・そうだな」
「高校、どこ行ってるの?」
「北斗。さなは?」
「東海林。・・・北斗って涼太の家からだと遠くない?」
「今は北斗の近くのアパートで一人暮らししてるから」
「一人暮らし!?すごーい!自炊してるの?」
「めんどくさいから年中カップ麺」
「もう・・・そんなんじゃだめじゃない、将来病気になるわよ?」
「俺に料理なんてできると思うか?」
「できないよねぇ^^」
「くっそ・・・改めて言われると何か馬鹿にされた気分だ・・・」
「じゃあ今度わたしが料理作りに行ってあげる!ちゃーんと野菜も取らないとね」
「あほか」
「Σなんで!?」
「あんたは俺の彼女かってんだ」
「ちがうけどー・・・(・ω・`)」
「少しは警戒心っての持てよ・・・女一人で一人暮らしの男の家に行ったらどうなるか分かるだろ?」
「でも、涼太だし・・・」
「俺だからって何だよ・・・」
「じゃあ萌も連れてく(・ω・`)」
「そういう問題じゃなくてだな」
「あっそれとも彼女さんいるの?」
「いねえし作る気もねえよ」
「じゃあ行く(・ω・´)」
「変な誤解されたらどうすんだ」
「姉ですって言う(・ω・´)」
「妹って言った方が信じてもらえそうだな」
「ひどーい・・・」
---
りょーたとさな。
伊藤さんちと溝端さんちは隣同士でした。
涼太の両親が離婚して引っ越すまではしょっちゅう遊んでました。
叶が入院してる時は三人でお見舞いに行ったり。
男同士というのもあって叶と涼太はものすごく仲が良かった。
両親の離婚と叶が亡くなったのはほぼ同時期。
そりゃあ心も荒みますわな(((
つくづく年上女子と年下男子の組み合わせ多すぎだろ(((
ちさかざと平八しかり、三津子とジュリオしかり。
苗と萌は私立の女子小学校に通ってたので、当然涼太とは別。
涼太は普通の公立小学校。
奈津美と苗萌が同じ小学校で仲良しさんでした。
溝端家も普通の家よりは裕福な家庭であり、当時は萌もそこまで下品な女子じゃなかったので、奈津美の母親にも咎められることなく普通に仲良く遊んでました。
今でも休日に一緒にどこかへ遊びに行ったり。
ただ今の萌を見たら奈津美の母親が黙っちゃいないだろうけど←
涼太と奈津美も面識あります。
溝端家に集まって皆で遊んだりしてました。
うちの高校生男子のハーレムっぷりときたら・・・
高校生モブ含めて8人いるのに男子が2人しかいないとか・・・
だって今更男子作っても見た目が誰かと被ry
「おい苗。バカ苗。学校行かねーのかよ?」
「行かない」
「んだよ受験生。大事な時期に学校サボっていいのかよ」
「別に・・・」
「友達と北斗の体育特待目指してるって言ってたじゃんかよ。部活さぼっちゃまずいんじゃないのか?」
「知らない」
「バド好きなんだろ?好きなことしてりゃ少しは叶のこともふっきれるんじゃねーの?」
「バドとかもうどうでもいい・・・叶はもう、やりたいことも、何もできなくなったのよ・・・?」
「叶はやりたいことやって死んだ。不慮の事故とかじゃないんだ、苗がいつまでもウジウジしてたって仕方ねーだろ」
「萌・・・叶が死んだとき・・・全然泣かなかったよね」
「泣く必要なんてないだろうがよ」
「悲しくないの?」
「むしろ寿命を縮めてまでやりたいことやって立派だ、って褒めてやりたいくらいだ」
「薄情なのね」
「いつまでもズルズル落ち込んでる苗なんかよりずっとマシだと思ってるぜ?」
「萌にとって叶は何だったの?大切な兄じゃなかったの?」
「はいはい、世界で一番大事なオニーサンでしたよ。ってか」
「・・・出てって」
「あん?」
「萌の顔なんて見たくない」
「はいはい。邪魔者は退散しますよっと」
---
「ただいま。バカ苗」
「顔も見たくないって言ったじゃない。出てってよ」
「うるせーよサボり魔」
「・・・なに、その格好・・・」
「似合うだろ?」
「そのネクタイ・・・白南風のじゃない」
「かっこいいだろ」
「それにそのズボン・・・丈詰めてるけど、叶のじゃないの?」
「まあな。ベルトないとすぐずり落ちるけどな」
「ふざけないでよ」
「あん?」
「叶の形見なんて着けて・・・なんのつもり?」
「叶と一緒に学校生活楽しんでるってだけだよ」
「ふざけてるの?」
「アタシから見れば今の苗のほうがよっぽどふざけてるけどな」
「叶はもう死んだのよ。萌がそんなことしても何にもならないじゃない」
「気分だよ気分。なんかこれ着けてると落ち着くんだ」
「わけがわからない。頭おかしくなったんじゃないの?」
「うるせーや」
「・・・それとも萌、本当は寂しいの?」
「あん?」
「本当は、寂しくて泣きたいんじゃないの?」
「アタシがそんな悲劇のヒロインぶると思うか?」
「思えないわ」
「だろ?」
「でも、寂しいとか、そういう感情は萌にだってあるでしょ・・・?」
「・・・まーな。叶がいないと、そりゃ寂しいよ」
「・・・ねえ萌」
「何だよ」
「どうして、同じお腹から生まれてきたのに、わたしと萌は強く生まれて、叶だけ弱く生まれちゃったんだろうね」
「・・・な。叶が健康だったら、もっとバカなこともできて楽しかっただろうよ」
「この世に神様がいたとしたら、ものすごく気まぐれで、身勝手で、理不尽な存在だと思わない?」
「なんでだ?」
「その人がどれくらい長く生きるか・・・神様の気まぐれで決まるのよ。これほど酷いことはないわ」
「ま、確かにそーだわな。でも、神様なんてアタシ的にはいようがいまいがどーでもいい」
「・・・・・・」
「早かれ遅かれ人はいつか死ぬ。仕方ない事なんだ。だれもそれに逆らったりできない。人生そのものが理不尽なんだよ」
「ずいぶんと分かりきった事を言うのね」
「だからだ。いつ死ぬか分からないんだったらそーやってウジウジするより楽しいことしたいんだよ、アタシは」
「・・・わたしには無理。そんな気力も沸いてこない」
「あっそ。苗がそうしたいんだったら別にアタシは止めないけどな」
「・・・・・・」
「叶と一緒に生きる、ってのはもう無理だけどさ。アタシは叶と一緒にいるつもりでこれからも生きるよ。本当の叶とは死んでから会えばいい」
「・・・死ねば、叶に会えるかしら」
「自殺は大罪だって言うぜ?自分から死にに行ったところで叶と同じところに行けるとは思えないけどな」
「・・・そう」
「死にたいんなら自然に死ぬのを待つこった」
「・・・・・・」
叶(苗の兄)没後。
萌だって叶の死は悲しかった。
でも、陰だろうがなんだろうが、泣きはしなかった。
叶がそんなこと望んでないから。
叶は満足のいく形で逝くことができたから。
火葬の際、運ばれていく棺に向かって「よくやった叶!あんたはアタシの自慢の兄だ!」って叫んだ。
それはもう満面の笑みで。
悲しみをかみ殺したような笑い方じゃなく、ごく自然な笑顔で。
周囲は不謹慎だと顔をしかめた。苗も同様。
だけど萌はそんなの気にしなかった。
薄情のように見えて、一番叶を分かっていたのが萌。
叶のことがそれはもう大好きだったけど、それゆえ萌の行動を理解できなかったのが苗。
その違い。
萌は本当に強い子です。
悲しい事も何でも乗り越える術を知ってる。
苗にはそれがなかった。
萌は口が悪いながらも、何だかんだで苗を励まそうとしてました。
まるで効果がなかったけど。
それでも、思いつめて自殺、という最悪のシナリオは萌によって食い止められた。
しょっぱなから鬱なもん書いたけど本来の苗はもっと明るいし萌との関係もこんな殺伐としてないよ!(((
溝端家。叶苗萌。かなえ、さなえ、めばえ。
漢字一文字で最後にえが付くという縛り(?)がある。
余談だが母親の名前は貴で「たかえ」。
基本的に提供キャラの名前は読みやすい一般的な読みを意識してるけど、溝端家はそんなことおかまいなしである(((
いや 聖は読みやすくないけど。←
でも漢和辞典に載ってるくらいの読みではある。
一番最初に書いた苗の小話これなんだけどあまりにも鬱すぎるので一番下に追いやった←
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